もしアインシュタインがいなければGPSはなかった?相対性理論が支える現在位置のカラクリ

スマートフォンの地図アプリで、自分の現在地がピタリと表示される。この当たり前の技術が、実は100年以上も前にアインシュタインが提唱した相対性理論に支えられていることをご存じでしょうか。もしこの理論がなければ、GPSの位置情報は1日に10km以上もズレてしまうのです。この記事では、GPSと相対性理論の驚くべき関係と、その精度のカラクリを解き明かします。

GPSが「現在地」を特定する基本的な仕組み

複数の衛星からの電波で距離を測る三辺測量

GPSは、宇宙にある複数の人工衛星からの電波をスマホなどで受信して動きます。それぞれの衛星からの距離が分かれば、三辺測量という計算方法で、地球上の正確な現在地を割り出すことが可能です。

「距離=光の速さ×時間」の”時間”の正確さが命

衛星との距離は「光の速さ × 電波が届くまでの時間」で計算されます。光は1秒で地球を7周半も進むほど高速です。そのため、時間にナノ秒(10億分の1秒)レベルのズレがあるだけで、距離の計算が大きく狂い、使い物にならなくなるのです。

アインシュタインが解き明かした「時間のズレ」

特殊相対性理論:速く動くほど時間は「遅れる」

ここで登場するのがアインシュタイン。彼が提唱した特殊相対性理論では、物体の速度が上がるほど、その物体の時間の進みが遅くなる、とされています。

一般相対性理論:重力が弱いほど時間は「速く進む」

さらに、アインシュタインは一般相対性理論で、もう一つの時間のズレを予言しました。それは「重力が弱い場所ほど、時間の進みは速くなる」というもの。地上よりも宇宙空間の方が時間の進みは速いのです。

GPSで実際に起きている「1日10km」の致命的な誤差

【速度の影響】衛星の時計は1日「7マイクロ秒」遅れる

この2つの理論は、そのままGPS衛星に当てはまります。まず特殊相対性理論の影響です。時速約1万4000kmで飛ぶ衛星の時計は、地上の我々の時計に比べ、1日で約7マイクロ秒(100万分の7秒)遅れる計算になります。

【重力の影響】衛星の時計は1日「45マイクロ秒」速く進む

一方で、一般相対性理論の影響も無視できません。地上より重力が弱い上空約2万kmを周回するため、衛星の時計は逆に1日で約45マイクロ秒も速く進んでしまうのです。この「遅れ」と「進み」が同時に発生します。

理論 現象 1日あたりの時間のズレ
速度の影響 特殊相対性理論 速く動くと時間が遅れる -7マイクロ秒
重力の影響 一般相対性理論 重力が弱いと時間が速く進む +45マイクロ秒
GPS衛星に起きる2つの時間のズレ

差し引き「38マイクロ秒」が1日の位置を10km以上狂わせる

進む「45」から遅れる「7」を引くと、衛星の時計は1日で合計38マイクロ秒、速く進むことになります。光は1マイクロ秒に約300m進むため、この極小のズレが、位置情報では実に1日10km以上の致命的な誤差になるのです。

アインシュタインの理論が実現した「未来予測の補正」

設計段階で「あえて時計を遅らせる」という解決策

この致命的な誤差を、GPSはどう解決したのか。答えは驚くほどシンプルです。衛星に載せる原子時計の周波数を、設計段階であらかじめ「1日38マイクロ秒遅れる」ように調整し、打ち上げているのです。

相対性理論は現代技術を支える必須のツール

つまり、GPSは相対性理論がなければ正確に動きません。100年以上も前の、一見すると難解な理論が未来を正確に予測し、今や私たちの生活に欠かせないツールを支えている。これは驚くべき事実と言えるでしょう。

まとめ

本記事では、GPSが相対性理論なしでは成り立たない理由を解説しました。

  • GPSの基本:衛星との通信における、ナノ秒単位の超正確な「時間」が位置情報の精度を決める。
  • 時間のズレ:「速く動くと時間は遅れ」「重力が弱いと時間は進む」という相対性理論の効果で、衛星と地上に時間のズレが生じる。
  • 巨大な誤差:このズレは1日で38マイクロ秒となり、位置情報に換算すると10km以上の致命的な誤差になる。
  • 解決策:相対性理論の計算に基づき、あらかじめ衛星の時計をわざと遅らせることで誤差を補正している。

何気なく使うその技術に、アインシュタインの壮大な知性が息づいているのです。

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